第4回ダイジェスト

社会システムへ

2017.02.24

KEYWORD

text:南後由和

  • 時代感覚を持つ。
  • ロジックを大切にしながらも、個人のアイデアによって差別化する。
  • 無味乾燥な数字に意味を付与し、社会システムに組み込む。
  • 複数の分野や手段が絡むシナジー効果への着目。
  • 動的で開かれたシステムの構築。
  • 単位の組み替えと統合。
  • リソースを均等に分配できない条件下において、プロセスの中で優先順位を見極める。
  • 自分自身が属する社会の“部分”を変えるツールを使うことで、“全体”としての社会を変えていこうとするスタンス。
  • 設計者、参加者、当事者の次元を同時に捉える。
  • 直接的な相手と非直接的な相手が混在する中で、もう一つ上の全体性を設定する。

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GUEST PROFILE

安藤 元太
Genta Ando

2004年 東京大学大学院 工学系研究科 建築学専攻修了
2004年 経済産業省 経済産業政策局 経済産業政策課
2005年 同 経済産業政策局 産業構造課
2007年 同 製造産業局 日用品室
2008年 同 大臣官房 総務課
2010年 留学(米・コロンビア大学 国際公共政策大学院)
2012年 資源エネルギー庁 電力改革推進室
2015年 経済産業省 電力・ガス取引監視等委員会事務局 取引監視課
2016年 同 経済産業政策局 産業組織課

下村 徹
Toru Shimomura

2001年 東京大学 工学部 建築学科卒業。大手金融機関での勤務を経て
2004年 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻修了
2005年 株式会社三菱総合研究所 入社
    中央防災会議における首都直下地震避難対策等専門調査会の事務局支援を担当。
2010年 プラチナ社会研究会の立ち上げに参画。行政問題を包括的に解決するプラチナシティを提唱。
2011年に発生した東日本大震災後は、南海トラフ巨大地震・首都直下地震の被害想定業務に従事。

危機管理・防災、まちづくり・都市政策を中心としたコンサルティング・調査業務に幅広く従事し、より安全な社会、より良い社会システムを構築することを目的に業務に取り組んでいる。

TALK

今回は、もう少し社会全体を見渡して、目に見えないシステムの構築に携わっている方が、どのように仕事をされているか伺ってみたい。
規制について言えば、何かを始める前に事前に規制するという考え方から、だんだんと、最終的にパフォーマンスが発揮されていればよいという考え方に変わってきています。言うなれば、事前規制から事後規制にというような大きな流れがあります。
論理的に考えてばかりいるのではなく、それに加えて自分自身の考え方、クリエイティビティを持つことを大事にしています。これは、政策を考える上で非常に重要で、なぜなら、政策を講じることは、放っておいたらこうなるという状況に対して一種のバイアスをかける行為だからです。
私が考える「建築的思考」は、時代感覚を持つということであったり、マクロとミクロの制度設計の両方に関心を持ち続けることであったり、ロジックを大切にしながらもそれだけを追い求め過ぎないといったことです。
シンクタンクの研究員は、情報・知の分野における顧客の課題解決と価値実現が主な役割であり、社会課題を発見し、その解決を通じて顧客とともに健全に発展する社会を実現する仕事を担っていると捉えています。
被害想定は単なるシミュレーション結果の提示で終わるものであってはいけません。シミュレーション結果を社会に実装していき、より安全・安心な社会システムをデザインすることが重要だと考えています。
社会には自分も含まれている。それらを完全に外部化することはできないし、ましてやコントロールすることもできません。それゆえ、社会の設計やデザインという言葉に違和感を覚えるんです。
建築設計と制度設計に共通しているのは、最初に全体を貫くコンセプトがないといけないことです。
手段を優先して進めようとすると、ある特定の会社が持っている技術を使ってまちづくりをしようと考えがちです。あえて手段を検討することの順番を下げているのが、このアプローチの大きな特徴です。
自分自身が属する社会の“部分”を変えるツールを使うことで、“全体”としても社会を変えていこうとするスタンスは、建築家の振る舞いと繋がってきます。そこで直面する本質的な課題は、「良い建築って何なのか」ということです。
社会を誘導するという発想はあまりもっていなくて、社会に存在する様々な行動を誘導したい気持ちの方がありますね。
日本では、それぞれのステークホルダーが領域を切りわけ、その分野で部分最適化することで満足しているところがあります。そうではなくて、隣同士や全体で手を組めるところを目指していくとより良くなるのではと考えています。
建築家も常にベクトルを未来に向かうことに置きがちです。そういう意味では、社会そのものを専門とする南後さんから我々の楽天的な振る舞いはどう見えるのですか。
社会学者は、観察することを職能のひとつとしています。だからこそ、計画や設計に対しては、距離をとってきました。ただ、川添さんがおっしゃるように、ある地域に入り、持続的な関係をもちながら、しかも自分が関与をしながら何かアクションを投げかけることによって、中長期的に観察していくスタンスもあると思います。
建築家は、職能としては良い建物を設計できればいいわけですが、それを超えた仕事をしたいわけです。それは直接的なクライアントという関係以上に、建物ができて街が良くなってほしいという発想もある。そのような全体性の設定の揺らぎが、私たちの立ち位置を迷わせている。
予測不可能なことが起きた時に、それをフィードバックできるようなシステム設計になっているかどうかが重要ではないでしょうか。
調整役は、コンサルタントや官僚に求められる資質の一つだと思います。調整役としてのコンサルタントに求められる能力の一つは、統合性です。欧米ではそういう人が実際にまちづくりの主体となってきています。
今日の議論で、僕自身「全体性が揺らいでいる」ことがとても大きな気づきになりました。どの仕事にも区切りや設計する対象や範囲が明確にあるわけですが、そこをどう超えていくかというのが同時代的なテーマだと思います。
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