連続シンポジウム
「ken-tic 建築的思考から」
建築的思考とは、必ずしもドローイングを描き、模型でスタディし、建築物へと収斂させていくような、狭義の設計のみを指すわけではありません。それは、さまざまなメディアや次元を横断しながら、未分化の雑多な情報を、新たなカタチに統合していく術であるでしょう。たとえば、建築家のレム・コールハースは、建築的思考の可能性とは、かたちを帯びていないものにかたちを与えてパブリックに認識させ広めていくこと、一貫性を持っていると思われていたものを歪めたり組み替えたりすること、構築することと破壊することの二面性を持つことであると語りました。
「ken-tic 建築的思考から」では、さまざまな分野の第一線で活躍されているゲストの方々の実践に寄り添い、ゲストとの対話のなかから、建築的思考の輪郭を際立たせ、その展開可能性を照らし出すことを狙いとしています。建築を基点として周辺領域を立体的につなぎ合わせる試みは、建築とは何か、建築に何が可能かを再定位することにもつながるでしょう。東日本大震災の復興にせよ、東京オリンピック・パラリンピック2020にせよ、建築の専門性とは何かを見つめ直し、それらを鍛えあげつつ、発展させていく態度がますます求められています。
お招きするゲストは、ホストと同世代の1970年代生まれ以降の方々を予定しています。ゲストやホストが学生時代であった1990 年代以降、たとえば慶應義塾大学総合政策学部・環境情報学部、東京藝術大学先端芸術表現科、東京大学大学院情報学環・学際情報学府など、総合・情報・学際などを冠にした学部や大学院が全国各地で誕生しました。人文系学部の縮小の動きが取りざたされる昨今ですが、これら総合・情報・学際を掲げた研究・教育のあり方も振り返ってしかるべき時期に入ったといえるでしょう。
ホストの南後は、建築と異分野をかけ合わせて討議する「建築の際」という連続シンポジウムを企画しました(吉見俊哉監修・南後由和編『建築の際』平凡社、2015)。「ken-tic 建築的思考から」は、「建築の際」の続編という性格がありつつも、建築という専門性を身にまとった人自身が、異分野でその専門性をどう展開しているかに光を当てる点に新たな特徴があります。社会人・学生、分野を問わず、皆さまの議論へのご参加を心よりお待ちしています。
なお、本連続シンポジウムのウェブサイトでは、次回開催予告および開催した回の記録を掲載し、多くの方々とプロセスを共有することで、シンポジウムから生まれる新たなテーマや問題提起についての第二の議論の場となることを目的としています。
東京大学生産技術研究所 川添善行
明治大学情報コミュニケーション学部 南後由和
1979年神奈川県生まれ。建築家、東京大学准教授。東京大学建築学科卒。オランダから帰国後、内藤廣に師事。代表作は、「佐世保の実験住宅」など。主な著作は『空間にこめられた意志をたどる』(幻冬舎)など。グッドデザイン 未来づくりデザイン賞などを受賞。日蘭建築文化協会会長。
1979年大阪府生まれ。社会学者、明治大学情報コミュニケーション学部専任講師。東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。東京大学大学院情報学環助教などを経て、現職。主な著書に『建築の際』(平凡社、2015)、『磯崎新建築論集7 建築のキュレーション』(岩波書店、2013)など。
スタッフ
企画アドバイス │ 中川大起
アートディレクション │ 加藤賢策(ラボラトリーズ)
編集・広報 │ 柴原聡子
補助スタッフ
東京大学・川添研究室
運営補助 │ 草野充子、学生一同
テキスト書起し │ 学生一同
撮影 │ ⿈竣湖
明治大学・南後ゼミ
運営補助 │ 川本直也、西園英紘、中村光希
撮影 │ 田中咲